花粉症の原因となる花粉は一年中飛散しています
花粉症を含むアレルギー性鼻炎の患者さん数は、近年増加傾向にあります1)。花粉だけでなく、室内にもアレルギーの原因は存在しますので、検査により症状に関連するアレルゲンを知っておくことが大切です。
また、原因となるアレルゲンがどの季節、どんな場所に存在しているかを知り、できる限りアレルゲンを吸いこまないように過ごす環境づくりを心がけましょう。
* : 厚生労働省 健康局がん疾病対策課アレルギーの現状等 平成28年2月3日資料より平成17年から平成26年までの約10年間で44万人から66万人へ約1.5倍に増加
春の花粉といえばスギ花粉がよく知られており、春先に鼻のかゆみ、鼻水などのアレルギー様症状があるとまず「スギ花粉症かな?」と思われる人も多いと思います。
スギ花粉以外にも、ヒノキやイネ科(カモガヤ、オオアワガエリ)、カバノキ科(ハンノキ、シラカンバ)の花粉もアレルギー症状の原因になります。また花粉以外にも一年を通して症状が出るダニなどのアレルゲンもあります。症状の原因となるアレルゲンを避け、アレルギー症状を誘発させないために、血液検査を利用してアレルゲンの特定に役立てましょう。
春の花粉症の原因はスギ花粉だけではありません。
アレルギー症状を引き起こす可能性のある花粉の種類はさまざまで、一年を通してなんらかの花粉が飛散しています。
春は、スギ花粉のほかに、ヒノキ花粉やカバノキ科の花粉(ハンノキ、シラカンバ)、イネ科の花粉が飛散しています。これらの花粉が原因の人は症状が長く続きます。
ヒノキ 飛散時期 3~5月
ハンノキ 飛散時期 1~5月
シラカンバ 飛散時期 4~6月
オオアワガエリ 飛散時期 4~11月
カモガヤ 飛散時期 4~11月
ブタクサ 飛散時期 7~11月
ヨモギ 飛散時期 7~11月
秋から冬はスギ花粉の狂い咲きにも注意!
通常スギの雄花は、6月から10月にかけて形成され、11月上旬に花粉が熟成し雄花は休眠に入ります。そして冬の低温によってスギ雄花の休眠は徐々に目を覚まし花粉を飛ばす準備を開始します。しかし、秋の気温が異常に高かった場合、狂い咲きと呼ばれる季節外れの開花現象が生じることがあります2)。年によっては11月を中心に10月~12月にかけてもわずかなスギ花粉が観測されています3)。敏感な方は秋から冬にも症状が出るかもしれません。
口の中に生じるイガイガなどの症状は、アレルギー性鼻炎(花粉症)に合併する花粉-食物アレルギー症候群かも知れません。
口腔症状を引き起こす原因花粉にはスギ花粉以外にイネ科やカバノキ科花粉があります。イネ科やカバノキ科花粉症の人は新鮮な果物や野菜、豆乳を飲食したときにアレルギー症状がでることがあります。原因食物と同時に花粉の回避も重要です。
口腔アレルギー症候群 (OAS:oral allergy syndrome)ともいわれる
特定の野菜や果物を摂取した直後~15分以内に、口の中がかゆくなったり、のどがイガイガして腫れたり、息苦しくなったりするなどの症状が現れる1)ことがあります。これは「花粉-食物アレルギー症候群(PFAS)や口腔アレルギー症候群(OAS)」と呼ばれています。もともと花粉症の人が、のちにその花粉のアレルゲンと交差反応する生の果物や野菜を摂取したときに口やのどの粘膜で起こるアレルギー症状です2)。軽度な症状が多いとされていますが、まれに生命を脅かすアナフィラキシーにつながる場合もあります1)。
シラカンバ(白樺)やハンノキなど、カバノキ科の花粉症の人の20~40%にバラ科のリンゴやサクランボ、桃を食べたときに症状がみられたとの報告もあります3)。同様に、イネ科の雑草やブタクサ花粉症の人がウリ科のメロンやスイカを食べたときに症状が現れることがあります。(主な花粉と交差反応性が証明されている果物と野菜については、表「花粉-食物アレルギー症候群(PFAS)に関連する原因花粉と食物(野菜・果物・ナッツ類)」を参照してください)
果物や野菜のアレルゲンは、多くの場合、熱で減弱する弱まることが多く、加熱調理されたものや加工品は摂取できることが多いです2)。
花粉と果物・野菜で見られる「花粉-食物アレルギー症候群:PFAS (pollen-food allergy syndrome)のほかにも、さまざまなアレルゲンで交差抗原性が報告されています。
ラテックスーフルーツ症候群
ラテックス(天然ゴム)アレルギーを持つ人は、果物を食べることで症状が起こることがあります。
症状は口がピリピリする症状から、場合によっては重度な症状となる場合もあります。バナナ、キウイ、アボカド、クリとそれらの加工品による症例が報告されています4)。
納豆アレルギーを持つ人は、意外なことにマリンスポーツ愛好家の患者さんに見られることが多く、納豆の粘り気の成分がクラゲの触手にも存在する(交差抗原性がある)ことから、クラゲに刺されたこととの関連性も報告されています5)。
PFASは口腔症状など比較的軽い症状に留まることが多いといわれていますが、中には重篤なケースもみられます。特に液体のため一度に大量に摂取できてしまう豆乳は原因となるGly m 4が少し耐熱性と言われているので全身的な症状が出ることがあり注意が必要です6)。
シラカンバ(白樺)やハンノキなど、カバノキ科の花粉症を持つ人は、豆乳を飲むことで花粉-食物アレルギー症候群(PFAS)を発症する可能性があり、場合によっては重い症状につながることもあるとして、2013年に国民生活センターから注意を呼びかける発表がありました。
豆乳等によるアレルギーについて -花粉症 (カバノキ科花粉症)の方はご注意を-国民生活センター
豆乳等(大豆を主な原材料とする飲料)による花粉ー食物アレルギー症候群 (PFAS)が発症するのはカバノキ科花粉症が原因です。花粉に含まれるタンパク質 (Pathogenesis-related protein 10 (PR-10))と似たタンパク質が大豆にも含まれているために起こります。大豆に含まれるPR₋10タンパク質をGly m 4といいます。Gly m 4 は加熱や発酵など加工処理で活性を失いやすいという性質があり、味噌や納豆に比べて 加工の程度が低い豆乳ではアレルギー症状が起こりやすいといわれています。
検査にはアレルギー症状を引き起こした豆乳など食品を使って皮膚プリックテストで確認する方法や、最近では大豆の中に含まれるタンパク質(Gly m 4)に対する特異的IgE抗体の量を調べる血液検査方法も取り入れられています。
豆乳を飲んで口の中に違和感やかゆみを感じるなどの症状が出た場合は、医師に相談しましょう。
1) 海老澤元宏編.症例を通して学ぶ食物アレルギーのすべて改訂2版.南山堂.2018;238-239.
2) 厚生労働省科学研究班による食物アレルギーの栄養食事指導の手引き2017.海老澤元宏研究;p17 (最終閲覧日:2019年09月26日)https://www.foodallergy.jp/wp-content/themes/foodallergy/pdf/nutritionalmanual2017.pdf
3) 日本小児アレルギー学会 食物アレルギー委員会・海老澤元宏・伊藤浩明・藤澤隆夫監修.食物アレルギー診療ガイドライン2016《2018年改訂版》.協和企画.2018;142-148.
4) 東田有智監修.アレルギー総合ガイドライン2019.協和企画.2019; 565-567.
5) 猪又直子. 特集/経皮感作からとらえる皮膚疾患 クラゲ刺傷と納豆アレルギー.MB Derma.2016.49-54
6) 独立行政法人国民生活センターホームページ(最終閲覧日:2019年09月26日)http://www.kokusen.go.jp/pdf/n-20131205_1.pdf
7) 独立行政法人国民生活センターHP (http://www.kokusen.go.jp/pdf/n-20131205_1.pdf)
鼻炎の原因は花粉だけでなく、ダニなど一年を通して症状を引き起こす可能性があるアレルゲンもあります。屋内環境にもさまざまな原因アレルゲンが潜んでいます。
ダニは屋内で注意が必要な原因アレルゲンでアレルギー性鼻炎やぜん息の増悪因子のひとつです3,4)。
ダニのフンや死骸がアレルゲンになります。
ダニは高温多湿の環境で増殖するため夏に増えた虫体からでたフンや死骸がアレルゲンとなりダニアレルゲン量が夏から秋にかけて増加します(図)。
そのため、ダニアレルギーの人は秋に症状が増悪すると言われております。ダニ対策が重要となります。
また、ダニが繁殖しやすいのは、寝具ですので年間を通してダニ対策が重要となります。
株式会社ペストマネジメントラボ 高岡正敏先生調査
カビは湿気の多い浴室や台所、押入れ、靴箱などに発生します。環境中のカビの胞子には季節変動があり梅雨時期と秋に増加します5)。カビはぜん息を悪化させることが多く、発生しないように対策することが重要です。
屋内外で発生するガのアレルゲン量は、春から秋にかけて(特に秋に多い)みられ6,7)、幼虫のフンや成虫の 鱗粉 (リンプン) 、死骸が原因となります。
屋内では、ウールなどの動物性繊維を使用した衣類などに発生するイガ(衣蛾)、穀類、お菓子、ペットフードなど食品に発生するメイガが見られます。
ゴキブリは、特に夏に多く見られ、フンや死骸がアレルゲンとなります。
ペット由来のアレルゲン(イヌおよびネコのフケ)は、飼育している家庭の中だけでなく、飼育してない家でも検出されます8)。これは、ペットを飼育している人の訪問またはペットを飼育している家に訪問することで、衣類などに付着したペットのフケが持ち込まれることによります9)。また、学校などの公共施設でも同様の理由でペットのアレルゲンが持ち込まれます9)ので飼育していなくても注意が必要です。
植生および時期は地域により若干異なります
花粉症の原因となる花粉は一年中飛散しています
アレルギーかも?と思ったら医師に相談しましょう。
日本アレルギー学会運営サイトにて、全国の拠点病院やアレルギー専門医を検索できます。
1) 厚生労働省 健康局がん疾病対策課アレルギーの現状等 平成28年2月3日資料より 平成17年から平成26年までの約10年間で44万人から66万人へ約1.5倍に増加
2) アレルギー53,1187-1994,2004
3) 鼻アレルギー診療ガイドライン-通年性鼻炎と花粉症-2020年版(改訂第9版).ライフ・サイエンス.2020:26
4)アレルギー免疫21,10,2014
5) アレルギー54,531-5,2005
6) アレルギー・免疫17(4),448-458,2000
7) J Allergy Clin Immunol 79,857-866,1987
8) J Allergy Clin Imunol 102,143-144,1998
9) アレルギー・免疫 20 (3),418- 425,2013
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国立病院機構相模原病院
臨床研究センター センター長
海老澤元宏 先生
広島市立広島市民病院 病院長/
広島大学病院 特別顧問
秀道広 先生
横浜市立みなと赤十字病院
アレルギーセンター長
中村陽一 先生
日本医科大学多摩永山病院
准教授・部長
後藤穣 先生